2022年になってから電車と徒歩で行く灘五郷酒蔵巡りを行っていますが、今回は第5弾 西郷(にしごう)です。大阪・神戸間に広がる灘五郷では最も神戸寄りの西側にあります。
過去の灘五郷巡り記事はこちら(1つ完全にカフェ巡りというのもありますが)日本酒造りの古来の基本工程・場の説明は西宮郷巡り、御影郷・魚崎郷巡りの旅行記をご参照願います。
西郷・沢の鶴資料館へは大石駅発着
西郷で見学可能な設備は『沢の鶴資料館』のみとなり、大石駅から発着で徒歩で8分。
大石駅西郷マーク
大石駅を降りると西郷として沢の鶴資料館があると案内されています。
改札を出て右手(海側・南側)にまっすぐ進むルートです。(途中地下道を通るとき、本筋から西側に逸れます。見えにくい地下道ですので、行き止まりかと一瞬不安になりますが、問題ありません。)
灘五郷 西郷の沢の鶴資料館
沢の鶴資料館は趣のある酒蔵らしい建物ですので、わかりやすいかと思います。
表に置いてある樽。この特徴のある※のマークはお正月に神戸ベイシェラトンで、灘のお酒の樽が勢揃いしていた時に端っこでも目立っていました。この※は正にお酒の原料ともなる『米』を指すもの。
また、沢の鶴は元々お米屋さんが創業された酒蔵。米自体をマークにできたのも大名の蔵屋敷等にも出入りする大きなお米屋さんだったからでしょうね。
沢の鶴資料館の道具① 【米を運ぶ→精米→洗う】
お酒造りの工程と場については、別の旅行記があるため、今回は道具と道具の名前にスポットをあててご紹介したいと思います。
大八車(だいはちぐるま)の名前の由来は?
入ってすぐに目に入る大八車。昔話の世界の代表のような道具ですが、なぜ大八車と呼ぶのか。考えてみたこともありませんでしたが、その答えが展示品の脇に記されていました。
江戸時代から昭和にかけて荷物の輸送に使われていた木製の荷車で、名前の由来は一台で八人分の仕事が出来たからです。
沢の鶴資料館 大八車 解説板より引用
唐箕ってなに?どう使うの?
唐箕というのは今もある道具で、ハンドルで風を起こすことで、わらくずと玄米を分離することができる器具です。ハンドルに連動した羽が中にあるのが見えます。
足踏み精米から水車精米へ
昔の精米は足で踏むシーソー型の精米機をつかっていましたが、1770年頃からその動力を足から六甲山系の急流をうまく使い、水車に変えることによって灘の酒は興隆しました。
七五三の足洗いの時に水を入れる『はす桶』
米は足で踏んで洗いますが、足洗いが七五三と言われるのは、まず70回踏んで洗ってとぎ汁を捨て、次に50回、もう一度とぎ汁を捨てて30回踏むからです。
沢の鶴資料館の道具たち②【米を蒸して冷ます】
大甑と脇釜
お米を蒸す大甑。この大きでも2時間ほどで米を蒸したとのことです。大というだけあって巨大です。下段写真の階段と比較してみていただければ。大甑の隣に設けられた脇釜は主としてお湯を沸かすのに使われていますが、大甑に変わってお米を蒸すこともあるそう。
甑の底には猿
甑の底の噴気口の蓋となって蒸気を分散させるこまを『猿』と呼ぶそう。どうみても猿には見えませんが、諸説ある呼び名の由来では猿のこしかけの茸に似ているから。それならわかります。
甑に入るためのわら靴『甑靴』
蒸した米は、自然の冷気を利用して冷やすのですが、その時に米を掬いだすため熱い甑に入るためのわら靴がこの甑靴。わらだけでそんなに熱さって伝わらなくなるのでしょうか。昔の職人さんは大変だなあと過酷さを感じます。
沢の鶴資料館の道具たち③【麹→酛造り】
麹室(こうじむろ)は高温を保つ場所
米と種麹から麹を作るためには日本酒作りに適した冬に、高温を保つことが必要。現代のような建築資材がない時代は熱が伝わりにくい籾殻が断熱材に利用されていたそうです。
『もやしもみともやしつぶし』のもやしって
麹室の写真の道具類に『もやしもみ』と『もやしつぶし』というものがあったので、何かなと調べてみました。酒造りの世界では種麹のことを『もやし』というそうです。
麹・米に宮水を加えての酛造り
以前、西宮郷巡りを実施した時に沢の鶴さんの宮水井戸看板を見かけていました。(今でいう)大石駅付近での酒造りでもやはり水は阪神電車で15分以上移動する西宮駅付近の『宮水』を利用して、『灘の酒』になっていくのですね。
先人の知恵 暖気樽(だきだる)
糖を食べアルコールを生み出す酒母を育成するためには、酒母を温める必要があります。そのためにこの暖気樽の中にお湯を詰めて、酒母の中にいれ、内側から温めるという手法が取られました。
沢の鶴資料館の道具たち④【仕込み】
お酒の仕込みは大樽で行われます。三段仕込みとは、添え仕込み(初めの仕込み)で『水・酵母・蒸米・麹』を仕込んだ後、2日後の中仕込みとその翌日の留仕込みに『水・蒸米・麹』を加えること。
発酵ステップが行われる大樽
大樽の中では発酵のステップが行われます。まず、麹が酵素を生産し、酵素が米のでんぷんを糖に変え、そして酵母が糖を食べてアルコールを生産していきます。
大樽を水平に保つ道具『なんば』
大樽の横に設置された長い棒。この役割は重りのついた糸を上から垂らして、大樽が水平となっているかを確認するものです。
沢の鶴資料館の道具たち⑤【搾り→濾過→火入れ→貯蔵】
巨大道具を使う搾りの工程
酒蔵に展示されている道具のなかでいつも大きさに圧倒されるのがこの搾り道具。写真の右方向のフネに醪を入れて、てこの原理で石の重しを使って搾ります、
火入れ方法によって『生』の表現が異なるの?
絞ったあとは、火入れの工程。
日本酒は、空気中の乳酸菌を使って発酵をしていくため、火入れは発酵と止める役割と、殺菌の役割を持つ工程です。
通常火入れは、搾り後と貯蔵して寝かせた後の2回行われますが、この火入れをするかどうかで日本酒の『生』の表現が異なります。道具から少し離れますが、沢の鶴さんHPが勉強になったため少し逸れて解説を。
『生酒』
生酒は2回ともも火入れをしないお酒。フレッシュな若々しいお酒です。
『生詰』(『ひやおろし』はこれ)
搾り後に一度火入れしたお酒を貯蔵後に火入れせずに出荷するお酒。
生酒よりも酸味が落ち着いて、口あたりがまろやかになります。
『生貯蔵酒』
生のまま貯蔵したお酒を出荷前に火入れしたお酒。
生酒よりは品質が安定します。生酒のフレッシュさと口あたりのまろやかさを併せ持ちます。
貯蔵工程で目張りをする際の道具『つばめ』
火入れ後の貯蔵工程では、雑菌が入らないように目張りをします。その際に目張り紙を乗せる台のことを『つばめ』と言います。名前の由来は巣の乗っている台に似ているから。確かにみたままつばめの巣の台に見えますね。
沢の鶴資料館の道具たち⑥【出荷】
酒の輸送・販売を支える樽と樽酒
酒造と別に独立した職人さんが手作りで作っているのが樽です。
樽が木で作られることによりお酒に木の香や成分がついてお酒に美味しさをプラスさせる効果があります。
お土産購入が楽しい沢の鶴資料館「ミュージアムショップ」(2022年3月試飲休止中)
灘五郷巡りといえば、大きな楽しみは試飲ですが、現在沢の鶴さんでは試飲は休止中。そのため、ミュージアムショップでは専らショッピングを楽しむこととなります。
変わり種としては、「紅茶と梅酒の出会い」や資料館限定酒もありました。
ボトルと古酒でテンションが上がるプレミアム古酒セット
が、最も気になった古酒プレミアムセットを購入。おしゃれなボトルは化粧品のように見えるほど。和の雰囲気のあるホテルのお部屋で飲んでみたい。そんなお酒ですね。50ml×4本という組み合わせも上品に飲めそうで良いですね。
また、お土産は味わいのある紙袋に入れていただけます。
この写真のだしおナッツミックスはナッツを昆布だしで味付けしたもの。塩味に加え若干の風味があって美味しかったです。
沢の鶴樽付きのボールペンもかわいいです。
プレミアム古酒セットは、中を開けると一本づつの解説書きが入っていました。見比べながら飲み比べも楽しいですよね。古酒の色、このセットで見ると古いほど茶色っぽく見えますが、茶色っぽさは経過年数によるものではなく成分の量や貯蔵温度によって変わると、こちらも中の説明書に書いていました。
今、2014年1本を開けてみましたが、なんともまろやか。甘味も感じるふくよかな感じで美味しくいただきました。
日本酒は文化を楽しむものでもありますので、酒蔵巡りをするとお酒がより美味しく感じられそうですね。